地震の前、女子二人とのどうでもいい日常
地震の2週間ほど前、僕は仕事で原発関連のドキュメンタリーを撮っていた。
岐阜にある地下300メートルの核廃棄研究施設を原子力発電所が多い福井県の中学生たちが見学しその後討論するといった内容のものだった。
地下施設から出た後中学生たちと一緒に着替えながら、なんとなく聞いた。
近くに原子力発電所がある日常について。
「爆発したらオレら終わりや。ウチは半径20キロ圏内やからオレらもう外出られへんやろーなー。まーしょうがないわ」
その言葉がたった数日後、リアルに感じることになるとはその時はまったく考えもしなかった。
編集がちょうど終わるくらいの時に地震が起こった。
その日から僕らの日常は静かに少しずつ変わって行って、まだ終わりが見えない。
このことはまたいずれ書くかもしれないが、その撮影の前日のどうでもいい話。
岐阜での仕事の一日前に名古屋にひとりで前乗りした。
僕は小学校3年生まで名古屋から電車で30分くらいの町に住んでいた。
引っ越ししてからそこを一度も訪れたことはない。
せっかくなんで26年ぶりに行ってみようと思った。
ちょっとメランコリックな感じになるかなぁ、と。
行って驚いた。
僕の記憶とびっくりするくらい変わっていなかった。
山と町が交じったいわゆるニュータウン。
住んでいた団地に行った後、よく遊んだちょっと大きめの公園に行った。
そこの正式名称は「○○西公園」だったが、カラフルなアーチ型の大きいジャングルジムが中央にあったので当時みんな「虹公園」と呼んでいた。
虹公園には当時の僕と同じくらいの小学校3、4年生の男女の子たちが10人ほど遊んでいた。
懐かしいなぁと思って見てると、ボールが飛んできたので、男の子に投げ返した。
するとその子が、
「あの〜、おじさん、誰のお父さんですか?」
と聞いてきた。
「誰のお父さんでもないよ。26年前にここら辺に住んでいたから懐かしくて見てたんだ。ねぇ、今でもこの公園って虹公園って呼ばれてるの?」
「はい、虹公園です!」
などという会話をしてたら他の子供数人集まってきた。
「なになに、このおじさん誰〜!!」
あ、なんか、ヤバいかな。
知らないおじさんだもんな、おれ。
「このおじさん、昔ここ住んでたんだってよ!」
「え〜ほんと〜!?」
と言ってる間に全員集まってきたので、昔よくやったこの公園の傾斜を利用したオリジナルのゲーム「ロクマムシ」を思い出し、それ知ってる?と聞いたら知らないなにそれ教えて!というので戦場カメラマンのマネをしながら教えた。
バカ受けだった。
で、
「おじさん、一緒に遊ぼうよ!」
と言われたので、
「あのさ、今さらだけど、おれ知らないおじさんだよ。変態かもしれないよ。いや、もちろん違うけどさ、お母さん見たらどう思うよ?心配するだろ?」
と言ったのだが、
「大丈夫だよ。おじさん、なんか面白いし。変態だったらみんなで叫ぶから!ねー!!!あそぼー!!!あそぼー!!!」
と全員に言われた。
なぜか、おじさん、大人気。
ということで遊びました。
全力で。
小学校3、4年に交じって35歳のおっさんが。
端から見れば完全にアウトです。
いや、でも、なんつーか楽しかったのです。
小学校3年のとき遊んでた場所でそれくらいの子と当時の遊びをする。
そりゃ楽しいに決まっている。
まーおそらく東京じゃこうはいかないんだろうな。
郊外の町だからなのか。
で、しばらく遊んだがハードすぎて、おじさん息切れ。
子供は体力あるうちに作った方が良いって言うがよくわかった。
時計を見ると、予定よりもだいぶ遅れている。
昔通っていた小学校や空手の教室、秘密基地を作った山道などもっと見たいところがあるのだ。
「悪い、おじさん、ちょっともう行くわ」
「え〜!!!!え〜!!!!」
悪い気はしない。
が、おじさんは行かなくてはいけない。
もっともっとの大合唱を背にして、子供たちと別れた。
1時間後、僕はいろいろ寄り道した後、昔通っていた小学校の校門にいた。
と、
「おじさ〜ん!!!」
という声が。
さっき一緒に遊んでいたうちの女の子2人がこっちに走ってくる。
「え〜、うそ〜、信じらんない!また会えるなんて!!」
と言われた(マジです)。
「おじさん、今からどこ行くの?」
「いや、ここの小学校に昔通っていたから入ろうと思って」
「私たちここの生徒だよ」
「ほんと?じゃ、おれの後輩なんだね」
女子二人組は学校を案内してくれた。
こちらもほとんど記憶と変わってなくてビックリした。
校庭を歩いていたら、女子二人組がそこにいた初老の男性に走りより、
「教頭先生〜!!このおじさん、昔、ここに通ったんだって!」
と僕の説明をした。
「あ、こんにちは。そうなんです、26年前にいまして。怪しいもんじゃないです」
と怪しい感じで挨拶してしまった。
教頭先生はニコニコして
「どうですか?26年前となにか変わってますか?」
と僕に聞いた。
平和すぎるぜ、この町。
小学校を出た後もいろいろ回ったが女子二人組はなぜか僕に着いてくる。
「おじさん、わたし荷物持つよ」
「いや、いいよ」
「持ちたい!」
なぜか荷物を持ってもらう僕。
スーパーなどがある広場に出たとき、急に甘い記憶が蘇った。
「あ、おれ、ここでバレンタインのチョコもらった!」
と思わず口に出して言ってしまった。
「え、おじさん、モテるの?」
「そこそこモテたよ。だって3個もらった」
「見栄はってるんじゃないの〜、というか3個ってそんなに多くないじゃん!」
なにこのやりとり?
集合団地のエリアに入った。
「ねーねー、おじさん。今から私たち友達のうちでゲームやるんだけど一緒に来る?」
「いやーそれはさすがに無理でしょ」
「なんで?」
「想像してごらん(イマジン風)、知らないおじさんを君たちが連れてきた時の友達やそのお母さんの反応を」
「大丈夫だよ〜」
なにが?!
と、荷物を持ってる子がダッシュで目の前にあった団地の階段を駆け上がった。
友達の家はそこだったようだ。
マズい!
追いかける僕。
「荷物、返しなさい!」
友達の家だと思われるドアの前でピンポンを連打する僕の荷物を持つ女子。
友達のお母さんが出てきた(おそらく同世代)。
そして目が合った。
・・これはなんとなくヤバいだろ。
が、そのお母さん、昼寝中に起こされたみたいで機嫌が悪く、僕の存在まったく気にせず
「もう、チャイム何度もならさないでよ!!!」
と女子にキレてすぐに引っ込んだ。
どうやら約束していた友達はいなかったようだ。
なんかわかんないけど危なかった。
団地を降りてバス停向かう。
そろそろ引き上げる時間だ。
相変わらず女子二人組は着いて来る。
子供の頃近道に使っていた野道を歩く。彼女たちも近道として使っているという。どんだけこの町は変わってないんだ、と思う。
「ねーおじさん、結婚してるの?」
「してないよ」
「したことある?」
「一緒に長く住んでたことはあるな。だいぶ昔に」
と、脇から飛び出た針金にパーカーのポケットが引っかかってハデに破れた。
「あ〜破れちゃったよ〜」
と言ったら
「おじさん、ひとりなんだから自分で裁縫できるようにしとかなくちゃダメだよ!」
・・女子はやっぱなんか言う事がませてます。
野道を抜け、よく映画を観に行った公民館の前を通り、切手が趣味だった奴についって行ってまったく興味がない切手を何枚か買った記憶がある郵便局を通り、よく戦隊もののヒーローショーを観た大きなデパートに着いた。
ユニクロやスタバが入っていて、さすがにやっと時代を感じた。
そこの前のバス停でバスに乗り僕は駅まで行く。
「おじさん、もう行くの?」
「うん、次のバスが来たら行くよ」
「なんか記念にちょうだい」
なに記念?
あげるものがないので、どうかと思ったがジュースとチョコレートを買ってあげた。
女子、大喜び。
「まー今回は特別だけど、知らないおじさんからもの買ってもらったらダメだよ」
まったく説得力がない。
バスが来た。
「おじさん、わたしたちいつも虹公園で遊んでるからまたこっち来たら公園によってね!」
と彼女たちは言い、僕はバスに乗り込んだ。
女子二人組はバスが出るまで手を振るのかな、と思いきや、もう背を向けて走り去っていた。
平和な日常の一片。
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