トミー・トランティーノの思い出
映画『デルタ』のトークイベントに8月8日(日)ゲスト出演する予定なんだけど、他の日の出演者に偶然、舞台演出家の平松れい子さんがいた。
懐かしい名前だった。
http://www.delta-movie.com/html/theater.html
いろいろ思い出して一気に書いたらすげー長くなった(twitter時代に逆行している!)
↓
平松さんとは7年前に一緒にアメリカを旅した。
ほぼ初対面のままニューヨークで合流し、フィラデルフィア〜ニュージャージーへ。
まだどの地域も雪が積もる2月頃だった。
彼女が監督・出演する『JOURNEY to LOCK THE LOCK』という画家で詩人のトミー・トランティーノについてのドキュメンタリー。
そのカメラマンが僕の仕事だった。
自分が演出しない作品の撮影はこの時はじめてで、面白そうだったから話が来てすぐに引き受けた。
スタッフは僕ら2人だけで、平松さんは出演もしているし映像作品は初めてということで僕の意見を尊重しほとんど任せてくれた。
トミーは殺人罪で約40年刑務所に入っていて、恩赦で出て来た元死刑囚だ。
入ってる間に絵を描き始め、その作品集に彼自身の詩を付けた書籍「 LOCK THE LOCK」が話題を呼び、日本でもアート界の一部で知られるようになった。
たまたま手にした「 LOCK THE LOCK」に感動した平松さんはわざわざアメリカの刑務所に出向きトミーと面会するなど交流を始める。
数年後トミーは出所しニュージャージーに住んだ。
出所後はじめてトミーに会いに平松さんが行く、それをドキュメンタリー作品にする、というのがその企画だった。
トミーはすでに60歳を超えていたが、刑務所に40年入っていたためまだ感覚はシャバにいた頃の少年時代で止まっているように僕には見えた。
わざわざ日本から自分に会いにやって来た若く美しい女性演出家の平松さんにトミーは(まさに)少年のようにはしゃいだ。
身長190センチの大男のトミーがはしゃぐとすごい迫力だった。
僕らはトミーの家で数日間一緒に過ごした。
トミーと平松さんは話すことが山のようにあり、僕はその様子も含め、撮るものがいくらでもあった。
トミーの膨大な作品は見ていても撮っていてもまったく飽きなかった。
全員ほとんど初対面のようなものだったが、僕らは気が合い疑似家族的な数日間だった。
トミーの住んでいた地域はかなり治安が悪くまるで「8マイル」みたいだった。
まだ若かった僕にはそのシュチュエーションは刺激的で、夜になるとわざわざ一人で危なそうな場所に汚い格好して出歩いたりした。
そういう場所からこっそり帰って来たところをトミーに見つかりマジで怒られた。
「悪いヤツに撃たれて殺されるかもしれないんだぞ!」
と殺人罪で服役していた元死刑囚に言われた。
最後の晩、3人だけでちょっとしたパーティをした。
僕はしこたま飲んでしまい酔っぱらってリビングのソファでいつのまにか寝てしまった。
なので2人が最後にどんな会話したのかは知らない。
真夜中に起きたら、つけっぱなしの砂嵐のテレビの光だけの薄暗い中、肩を震わせて泣くトミーの後ろ姿が見えた。
その光景があまりに「映画」だったのでこっそりカメラを出して撮影しようと思ったけどやめた。
1時間くらいそのままにしていた。
ほんの少し日が射して来た頃に僕は起きたふりをして、トミーに声をかけた。
雪の中一緒にベーグルを買いに行った。
わざわざ歩いて行ったわりにベーグルは不味かった。
別れ際、トミーから額に入った彼の絵をもらった。
「お礼に今度、東京遊びに来たらいろいろ連れて行くよ!」
と言ったら少し悲しそうな笑みを浮かべ、
「You are My No1 Son」と言ってハグしてくれた。
帰りの飛行機で平松さんから、恩赦で刑務所出たから法律でトミーはニュージャージーから外には一生出られないということを聞いた。
俺はホント無知で無責任なこと言うなぁと後悔した。
帰国後、平松さんとは何度も話し合い彼女の意図を十分理解しながら撮影していたのでまず僕に編集を任す、ということになった。
当時、僕は『Fragment』を撮影中で(『JOURNEY to LOCK THE LOCK』撮影の1ヶ月後、僕はグラウンドゼロのご祈祷シーンの為に再びNYへ行った)自分なりのドキュメントスタイルを何となく構築しつつあり、「JOURNEY to LOCK THE LOCK」は現場で感覚的に導かれ撮影しながら編集を想定していたので、その方向で組み上げて行った。
なかなかエッジが効いた作品ができたと思う。
が、そのできたものはプロデューサーや企画者の方たちが当初この題材で考えていた作品とはまるで違った。
というか、そんな方向を当初に想定していたことは全然知らなかった。
多くの人がひとつの作品に関わるとそれぞれの考えが錯綜してちゃんと伝わらないことが多々ある。
監督の平松さんも交えいろいろ話したが、結局その方向で行くことに。
当然だ。
この作品で僕は監督でもなければ企画立案者でもなく元々はただ依頼されて撮影しただけの立場なのだ。
というわけでその作品から僕は完全に離れ、他の人たちで最初から編集をし直し、最終的に僕が編集したものとはまったく違う作品が完成した。
同じ素材を使っても編集のイニシアチブを取る人によってまったく違う作品ができるということを学んだのはこの体験からだった。
自分がこうしようと思って撮ったカットが真逆の意味で使われているのを観るのは不思議な感じだったが、同時になるほど〜とも思った。
そういう意味で映画、映像ってほんと面白い。
僕が編集した最初のバージョンはそのまま上書き編集してしまった為に残っていない。
その時はあまり思わなかったけど、今考えれば残しておけば良かったな。
完成した「JOURNEY to LOCK THE LOCK」はネットで配信されたあと、今はなき下北の映画館で上映され、その後何度かアートスペースなどでも上映したようだ。
久々に観たくなった。
トミーにもらった絵はまだうちに飾ってある。
トミー・トランティーノ インタビュー
http://www.moment.gr.jp/3/special.html
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